山本貴光著『「百学連環」を読む』

山本貴光著『「百学連環」を読む』

Sanseido Word-Wise Web[三省堂辞書サイト]にウェブ連載(2011年4月8日スタート〜2013年11月8日連載終了)されていた『「百学連環」を読む』が、ようやく書物にまとめられたので、さっそく新刊を購入。

現代の学術は、国語、数学といった科目から、文系/理系、さらにいろいろな領域に分かれ、細分化され、専門化が進んでいますが、その来歴はいったいどのようなものだったのでしょうか?

江戸後期から明治にかけて活躍した啓蒙思想家であり、「(希)哲学」という訳語をはじめ、多くの学術用語を考案したことで知られる西周(1829-1897)は、西欧学術が日本に導入される中、その学術全体を相互の連関の中で広く見渡そうと試みています。

本書は、現代における学術の全域を相互の連関の中で捉え直すための手がかりとして、西周が私塾で行なった講義に着目し、その内容を記録した明治三年頃の文書「百學連環」を現代の言葉に置き換え、註釈を加えながら、丹念に読み解いたもの。

「百学連環」を読む

知のマップを眺望する。西周の私塾での講義「百学連環」は当時の西欧諸学を相互の連関の中で見渡そうとする試みであった。その講義録を現代の言葉に置き換え精読することで、文化の大転換期に学術全体をどう見ていたかに迫る。(帯文より)

[著者] 山本貴光 [校閲] 木村直恵 [校正] 坂田星子 田村豪 山本雅幸
[装幀・本文設計] 坂野公一 [組版] デジウェイ株式会社
[発行所] 三省堂
[発行年] 2016年8月20日 1刷
[言語] 日本語 [図版] モノトーン|イラスト
[フォーマット] A5|ソフトカバー [ボリューム] 526頁
[サイズ] 210mm × 148mm × 29mm
[構成] 1冊 [付属] カバー、帯

[目次・構成・収録内容]
はじめに

第1章 どんな文書か
まずは全体を眺める|総論の構成―目次を読む|学術技芸|学術の方略|新致知学|真理

第2章 「百学連環」とはなにか
「百学連環」に飛びこむ|ギリシア語の揺らぎ|揺らぎのわけを推理する|「輪の中の童子」の謎|円環をなした教養|知のリレー|政治学のエンサイクロペディア?|「政治学エンサイクロペディア」の正体|法学のエンチクロペディー|文献学のエンチクロペディー|哲学のエンチクロペディー|学術のエンサイクロペディア|書物としての「エンサイクロペディア」|知識の樹木/知識の連環|学域を弁える|餅は餅屋|中国の学術分類

第3章 「学」とはなにか
動詞で考える|術・技・藝の原義0|なぜ Science and Arts なのか|なぜ Scio と ars なのか|学問の定義―ハミルトンの引用|アリストテレスの影|学に定義あり

第4章 「術」とはなにか
理を究めて成し遂げやすくする|術の定義の出典を追う|「アート」を巡る大いなる伝言ゲーム|術の定義―ハズリットの引用の引用|ベイリーの引用の引用の引用?

第5章 学と術
学と術の区別|アートとサイエンスは紛らわしい?|サイエンスの同義語|ラテン語の引用元|アリストテレスの区別―「エピステーメー」と「テクネー」|どの『ウェブスター英語辞典』か|医学・医術を具体例にして|真理への二つの関わり方

第6章 観察と実践
観察と実践|誤用にご注意

第7章 知行
知行とはなにか|仮想敵は誰か|知は広く、行は細かく|温故知新|日新成功|知は上向と下向で|君子は和して同ぜず|江戸の「学術」―貝原益軒の場合

第8章 学術
「単純の学」と「適用の学」|「技術」と「芸術」|『ウェブスター英語辞典』の定義|術の区別を比べる|万民の学術|真の学術

第9章 文学
文学なくして真の学術となることなし|文学の力|世界三大発明|東西の活版印刷事情|出版の自由|文は貫道の器なり|文は道を載せる|文章の力―日本の場合|非理法権天|西洋古へは學術を七學と定めり|ヒューマニティーズ|文章学をやるならこの五学|源を正す学としてのサンスクリット

第10章 学術の道具と手法
学術と文章の関係|学術に関わる施設|さまざまな専門博物館|特許局が博物館?|学たるものに実験あり|空理に趨るを防ぐためなり|不立文字|書籍上の論|江戸の儒者の場合|文章は諸人の解し易きを主とする|

第11章 論理と真理
新致知学―真理を探究する方法|得モ缺マジキ論理学|なぜ「演繹」というのか|演繹を猫とネズミに譬える|書籍の奴隷となりかねない|陽明は心を主とするけれど|帰納法を人の肴を食うに譬える|リンゴと万有引力|帰納法―政治学の場合|諸学における真理の例

第12章 真理を知る道
学は真理を求め、真理を応用するを術という|知は力なり、されど……|真理の価値を漢籍で言うと|観念を連環させる|西流ノート術|恐るべき藪医者|真理を知る二つの道|「陰表」を天文学で譬えると|「霧斑」とはなにか|消極は積極につながる|宇宙から見れば極微物|分光分析もまた|サンショ魚とて怪しけなる魚|主人と泥棒

第13章 知をめぐる罠
惑溺と臆断という二つの罠|result と knowledge の区別|談虎色変|学問の大律|三段階説|雷の三段階|学から術へ―応用の三段階|学術にも才不才あり|学び手次第で賢愚いずれにも|学術に才識あり|ジョン・ロック曰く|才識を器に譬える

第14章 体系と方法
体系と方法|体系―眞理を纒めて知る|体系―建築と中国宇宙論を例に|記述的学問|体系化された歴史学とは|方法とはなにか

第15章 学術の分類と連環
連環というイメージ|普通学と個別学|「普通」とはなにか|「個別」とはなにか|心理と物理|心理と物理を軍事に譬える|心理と物理の関係|学術分類の行方|新たなる百学連環へ向けて

あとがき

附録
『西周全集』(宗高書房)目次一覧
百学連環総目次
百学連環総論原文および現代語訳
参考文献
索引

[初出] Sanseido Word-Wise Web[三省堂辞書サイト] 2011年4月8日スタート〜2013年11月8日連載終了
[版元サイト] http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/dicts/books/100gaku/index.html

[プロフィール] 山本貴光(やまもとたかみつ)1971年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。文筆家・ゲーム作家。コーエーにてゲーム制作(企画/プログラム)に従事の後、2004年からフリーランス。好きなものはカステラ、原節子。「哲学の劇場」主宰。

[代表作] ゲーム:『That’s QT』『戦国無双』ほか。
著書:『心脳問題―「脳の世紀」を生き抜く』(吉川浩満との共著、『脳がわかれば心がわかるか―脳科学リテラシー講座』として改題増補改訂し、2016/6刊行)、『問題がモンダイなのだ』(吉川との共著)、『コンピュータのひみつ』、『文体の科学』ほか。
訳書:『MiND―心の哲学』(吉川との共訳、ジョン・R・サール著)、『ルールズ・オブ・プレイ』(サレン/ジマーマン著)など。

こうして連載時の内容が、加筆・修正され、校閲、校正、装幀・本文設計、組版の担い手とともに一冊の書物になったものを手にすると、読みやすさはもちろんのこと、ざっと見て感じるのは、パラパラとめくってあちらこちらの移動が容易な書物というのは、この本のテーマでもありますが、全体を俯瞰するには実に都合がいい造りです。

ウェブ連載は、その都度山本さんのtwitterなどから、情報が流れてきたタイミングで読んでいたので、正直なところ、読み飛ばしたり、読み忘れたりしている回が結構あります。すでに日々ネットでテキストの断片とつき合うのが当たり前になっていたし、週一連載ということもあり、最初から全て通して読もうという感覚がなかったかもしれません。これはどちらがよいという話ではなく、それぞれのメディアの特性だと思いますが、ネットでの読み方が現れている記録が残っています。随分前ですが、連載終了後に読み直した時に“部分”が気になったのかツイートしておりました…。

「百學連環」を通して学術全体を俯瞰するという連載の主旨は分かっていたはずですが、見事に気になったところだけを読んでいます…。山本さんはご丁寧に返信くださっているんですが、今回本になった該当箇所でも省略はそのままでした(本の主旨から外れてたら当然ですよね…)。そこは印欧語根dhē-やdhēs-のことかなと思っています。

余談はさておき、ウェブ連載はいまでも読めるので、気になるテキストに触れながら、学術全体を相互の連関の中で広く見渡そうと試みた『「百学連環」を読む』の楽しみを是非みなさまもごいっしょに!